お嬢様、今夜も溺愛いたします。
「それって、どういう……?」
すると私の目元にちゅっと優しい口づけを落とすと、ぎゅっと手を握られた。
「お嬢様は先程私の誘いに断りませんでしたよね?こんなに怖くて苦手だって分かってて。私にはお見通しです」
「うっ」
やっぱり、バレてるよね……
あんなに反応してれば。
「ですが、お嬢様は強がって無理してでも入ろうとなさいました。現に今こうやって、恐怖で泣いておられるのに」
そう言うと、力が入らない私を引っ張るかのようにふわりと抱き上げた。
「お嬢様はもっとわがままをおっしゃっていいんですよ。ご両親を亡くされて、1人でつらい思いを抱え込んで。他人に甘えるのが苦手なことは十分に分かっています」
「ですが、私にだけは全部おっしゃってくれて構わないんですよ。何を言われたって私は可愛い、嬉しいとしか思いませんし、もっとお嬢様のことを知りたいのです」
「十夜、さん………」
そんなふうに思ってくれてたんだ……
ゆっくり歩き出した十夜さんは、私に優しく微笑みかけると、そっとつぶやいた。
「どうしてほしいですかお嬢様」
のぞきこんできたその目は穏やかで優しい色しかなくて。
「甘えていいんですよ」
そう言われてるみたいで。
ぎゅっと胸が締めつけられて、また泣きたくなった。
「誰もいないところで抱きしめて……」
震える声はどこか掠れていた。
ここはまだ人がいるし、出口も近いから。
恥ずかしさよりも、今は素直に甘えたかった。
こんなに私のことを分かってくれて、見てくれている人がそばにいることをもっと強く感じたかったから。
「仰せのままに、お嬢様」