お嬢様、今夜も溺愛いたします。


「どうして、キスなんて……っ」


未だ落ちつかない息を整えながら、声を振り絞る。


十夜さんは、好きでもない相手にキスできる人なの……?


気持ちが傾いていると思っていたのも、意識しているのも、私だけ?


今になって、恥ずかしさ以上に悲しい気持ちが込み上げてくる。


じんわりと目元が熱くなって、鼻がツンっとした時。


「本当はまだ我慢するつもりでした」


「えっ?」


はぁっとため息をついたあと、私をぎゅっと抱きしめる十夜さん。


耳にかかる吐息が熱くて、私はまたビクッと跳ねる。


「お嬢様が私のことをすべて思い出されてから言おうと決めていたのに。これもぜんぶ、お嬢様が可愛いすぎるのがいけないんですからね」


「えっ!?」


戸惑う私からそっと身体を離した十夜さんは熱っぽい目を向けてきた。


「ずっと我慢していたのに、お嬢様が上目遣いでしかも抱きついてくるとか、ただでさえいつも理性がぶっとびそうなのに、極めつけにこれって。好きな子にされて手を出さない男の方が信じられませんよ」


「と、十夜さん?」


あのクールな十夜さんが、


あのいつも淡々として照れるなんて貴重すぎるあの十夜さんが顔を赤くして私を見ている。


これは、夢ですか……?
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