お嬢様、今夜も溺愛いたします。


「やっぱり、私がつけてあげます」


十夜さんの手の中にあったそれに手を伸ばそうとすると、すいっと持ち上げられた。


「えっ!?
そんなの恥ずかしいからやですっ……」


「嫌って言われると、尚更したくなりますねぇ」


なんて意地悪な返事をされるだけ。


「大人しくされるがままでいて下さい」


あまったるい声が耳に注ぎ込まれて、私は黙るしかなくなる。


「なんだかイケナイことをしているみたいになりますね」


「ばっ、ばかなことを言わないで下さい!」


「だめですよ動いちゃ」


「ううっ……」


真正面から唇をガン見され、今にも逃げ出したい衝動に駆られる。


意識している相手にこんなことされるとか、恥ずかしい以外なにものでもない。

とにかく目が合わないようにと、十夜さんの背後のものを見つめる。


「はい、できましたよ」


ピーチの香りが鼻をくすぐって、唇全体が蜂蜜でもかけられたみたいに甘く感じる。


「ど、どうも……」


私はすでにキャパオーバー。


どこの世界に意識している相手にリップグロスを塗られて、平気でいられる人がいるものか。


今にもキスできそうな距離に、さっきから心臓がバクバクうるさい。
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