お嬢様、今夜も溺愛いたします。
「先程のあれは……」
「あれ?」
「好きな人がいるとおっしゃったことです」
「ああ、はい。それがどうかしました?」
首を傾げれば、黒木さんは気になる……と訴えるようにじっと見つめてくる。
「……実際に、そういう方はお嬢様にはおられるのですか?」
「私に?
いえ、いませんけど……」
元カレのことがあってから、そういうことに対して臆病になってる自分がいる。
てか、今なんでその話?
さっきの話題はもう終わったんじゃ?
「そうなんですか。
死ぬほど嬉しいです」
「は、はあ……」
めっちゃにっこり笑ってるけど、それの、何が嬉しいんだろう?
しかもたぶんこの表情は、さっき大笑いしてた時と同じ。
きっと、黒木さんの本心。
「ところで、お嬢様」
「はい?」
「先程のお約束。忘れてはおりませんよね?」
「約束……それって、まさかっ……」
それにピーンと来た私は、嫌な汗が背中を伝い、1歩ずつ後ろに下がろうとするけれど。
サッと腰に手が回されて、気づけばあたたかい腕の中に。
「はい。私の気が済むまで、お嬢様を抱きしめさせて下さいね」
楽しんでるその表情に、喉の奥で声にならない悲鳴が上がる。
「や、やめてくださいーーーーっ!!」
「やめません。逃がしませんよ、お嬢様」
それから始終緊張していた私は、開放される頃には精神的にぐったりとしていたのだった。