強引な副社長との政略結婚は甘すぎます

最近ではだんだんと声をかけられることも少なくなってきていたが、久しぶりによりによってトイレで声を掛けられて、ため息をつきたいのを抑えると、いつも通りの答えを申し訳なさそうに言った。

「えーそうなんだ。せっかく副社長ともお近づきになれると思ったのに」

名前もわからないような派手な化粧の先輩に、私は洗っていた手を止めた。

「え？副社長？」

「え？って、半分以上は副社長狙いだと思うわよ。神崎さんも優良物件だけど、やっぱり副社長よね」
そう言って、その先輩の隣にいたもう一人の女の人に同意を求める。

「そうよね。でも、副社長って噂があるじゃない？」
少し小声で言ったその女の人は、眉根を寄せた。

「噂？」
聞き返してくれた先輩に、心の中でナイス！と言いながら、私もその女の人の答えを待った。