強引な副社長との政略結婚は甘すぎます
すっかり忘れていた瀬能さんを、また知ることになったのは、初めて会った日から1週間ほど経ってからだった。

「優里香ちゃん、この申請書お願いできる?」
ふいに上から降ってきた声に、私は顔を上げた。

「あ……」
一瞬名前がでてこなくて、私は言葉を詰まらせた。

「ひょっとして俺の事忘れた?」
人懐っこい笑顔をわざと崩して、泣きそうな顔になったその人に、私はクスリと笑い声を漏らしていた。

「いいね。優里香ちゃんの笑顔」
その言葉に、私はあわてて真面目な表情に戻した。

どうもこの人は軽いよ……。いつも誰構わず声かけてそうだよね……。
そしてこの笑顔って……。
こないだは気づかなかったが、近くで感じるこの人の空気感になんとなく違和感を覚えた。

私は距離をとりつつその書類を受け取とって、氏名欄をチラリとみて、名前を確認して瀬能さんをみた。

「かしこまりました。お預かりしますね」
営業スマイルを少し作って、すぐにパソコンに目を移すと、耳元に気配を感じて振り向いた。

すぐ目の前に瀬能さんのきれいな顔があり、びっくりして私は目を見開いた。
< 154 / 218 >

この作品をシェア

pagetop