強引な副社長との政略結婚は甘すぎます
「優里香ちゃん、今日の夜は暇?」
小声で耳元で囁かれ、私は慌てて首を振った。
「暇じゃありません!」
つい声が大きくなり、慌てて周りを見渡した。
クスクスと笑う瀬能さんを、軽く睨みつけると、
「そんなに慌てなくても。優里香ちゃんかわいい」
そんな軽口を叩きながら、瀬能さんはヒラヒラ手を振ると行ってしまった。
呆然として私はそんな瀬能さんの後姿を見つめた。
「笠井さん?どうしたの?」
固まっていた私は町屋先輩の声に我に返ると、大きく息を吐いた。
「あの、今の……この瀬能さんて人知ってますか?」
申請書を先輩の前に出して、書かれていた文字を見せた。
海外事業部 瀬能林太郎
「ああ、海外事業部にアメリカから戻ってきたイケメンがいるって噂になってた人かな?」
町屋先輩は思い出すように、書かれた文字をみた後私に視線を向けた。
「アメリカから……」
「この人がどうかしたの?」
不思議そうに聞く町屋先輩だったが、私自身がどうしてちょっかいをだされるのかも、名前を知っているかもわからなかった。