強引な副社長との政略結婚は甘すぎます
「瀬能さん……」
覚えた名前を口にすると、チラリと瀬能さんはスマホの画面に目を向けた気がした。
そしてそのまま強引に私のスマホを取り上げると、終了ボタンを押してしまった。
「ちょ!!何するんですか!」
その行動に、私は声を荒げると瀬能さんを睨みつけた。
そんな私の態度にも、憶する様子もなく瀬能さんは私に笑いかける。
「だって、俺が声をかけようとしてるのに、電話にでられたらいやでしょう?」
肩を揺らしながら微笑を浮かべる瀬能さんに、私はゾクリと背筋が冷たくなった。
この人は危険だ……。
瞬時に思ったこの感覚はきっと間違っていない。
そう思って瀬能さんから携帯を奪い取ろうとするも、スルリとスマホは瀬能さんの上着の内ポケットに滑り込んで言った。
「なにを……」
「とれるならどうぞ?」
その言葉に私は、涙が流れそうになるのを押さえて、瀬能さんを睨みつけた。
「ここはやばいな……」
呟くようにいった瀬能さんは、私の腕をとると、「行くよ」とだけ言って走り出した。
「いや!」
その言葉は誰の耳にも届くことなく、私はタクシーに押し込まれていた。