強引な副社長との政略結婚は甘すぎます
「あの……。そんな……。信じられる訳ないです」
そうだ。こんな瀬能さんみたいな人が私みたいな地味な人間に一目ぼれするわけない。
からかわれているのだろうと、私は瀬能さんから視線を外そうとした。
「からかってないよ」
静かに言われた言葉に、私は視線をはずせなくなった。
「瀬能……さん?」
「優里香ちゃん。俺にしたら?」
「え?」
意味が解らず問いかけた私に、瀬能さんはすぐにいつも通りの軽い笑みを浮かべると、
「食事だけつきあってよ」
「でも、私は……」
「待っている人でもいるの?」
その言葉に、まさか副社長と住んでいる、ましてや結婚しているなど到底いえず私は言葉を濁した。
「いないですけど……」
「じゃあ、いいじゃん。何もしない。約束する。ただ優里香ちゃんともう少しお近づきになりたいだけだからね」
そういった瀬能さんから、さっきまで感じた恐怖は感じられず、どう断っていいかわからないままタクシーは目的地へと向かってしまった。