強引な副社長との政略結婚は甘すぎます
「晃さん」
「なに?」
「婚姻届け……だしていないですよね?」
その言葉に、晃さんは少し動きを止めた後、チラリと翔太郎さんを見た。
どう考えてもこの話の流れから、婚姻届けが出されているとは思えなかった。
「出してない」
そう答えた翔太郎さんだった。
やっぱりね……。
なぜかもう笑えてきて、私は小さく呟く。
「じゃあ、続ける必要もないですね。本当は」
「優里香……」
そこで車がマンションへと付き、私はもう我が家になってしまっているその場所へと足を踏み入れた。
大きな窓の外を見ながら、私は出来る限り明るく翔太郎さんに声をかけた。
「でも、すぐに私がこの家を出たら怪しまれますよね。せめて翔太郎さんが社長になるのを見届けたら家をでます……」
そこまで言ったところで、後ろから翔太郎さんに抱きすくめられた。
「優里香、頼む。ずっとここにいてくれ。優里香がいない生活なんて考えられないんだよ」
「すぐにまた新しい家政婦さんがきますよ」
温かい腕を振りほどけない私は、まだまだ覚悟が足りないかもしれない。
この人から離れなければならにという覚悟を。
「俺は優里香がいい。優里香じゃないと……」
今翔太郎さんに何を言われても、私には響かない事を翔太郎さんは悟ったのだろう。
そのまま無言でしばらくお互いの体温を感じ続けた。