冷徹王子と成り代わり花嫁契約
プロローグ 秘密の契約


妹が亡くなったと知らされたのは、嵐が来る前触れのように、虫ひとつ鳴かない静かな夜のことだった。

使い古され所々に穴が開き薄汚れた外套が、風を受けて揺れる。もう季節は冬に近付いているというのに、私に与えられた衣服は今纏っている、召使が着る薄手の洋服だけだった。

北風で十分に冷やされた空気の中を歩くには、あまりにも冷たくて、私は自分の身を抱くようにして腕を交差させた。


「……申し訳ございません。よく、聴こえなかったのですが、なんと?」


恐る恐る、震える声でそう尋ねると、私を見下ろす男の冷たい視線が、身体を射抜くように降り注いだ。


「お前の妹が何者かによって暗殺された。現状分かっていることはそれだけだ」


もう一度、先程と一字一句違わず、淡々と吐き捨てられた言葉に、私は無意識に口元に手を当てていた。


「……それは、どんな冗談で……」

「自分の眼で確認するか?」


静かな夜に似つかわしくない、従者や兵士達が駆け回る音を背後に聞きながら、私は漏れそうになる嗚咽を堪えた。

真っ直ぐに私を見つめる男の、その瞳の奥には何の光も灯していない。

それが嘘なのか真なのか、詮索を許さないとでも言うような、意思の強い瞳からゆっくりと視線を逸らして、私は首を横に振った。

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