冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「俺だ」
名前くらい名乗りなさいよ、と思いながらも、扉越しのくぐもった声で誰だか判別は出来る。
エリオット王子だ。
世話係は畳んだ使用済みのシーツを畳んで椅子の背もたれに掛けて、扉に歩み寄った。
「申し訳ございません、旦那様。ロゼッタ様はまだ朝の支度中でして……」
「問題ない。入るぞ」
「い、いけません!いくら婚約者様とはいえ、未婚の女性の下着姿を見るだなんて……!」
世話係の女性は慌てて扉の取っ手に手を掛けて外部からの侵入を拒もうとするが、男の力に適うはずもなく、渋々後ろに退避した。
本当に一国の王子なのかと非難したくなるようなその横暴さに呆れながら、私はため息をついて腰を上げた。
「済まないが、二人きりにして欲しい」
威圧感のある低い声に、世話係は一瞬気後れしたようで、言葉に詰まっていた。彼女が二の句を次ぐ前に、男は冷たく言い放った。
「これは命令だ」
「……かしこまりました。ロゼッタ様、また後ほどお伺いします」
「え、ええ……」
心配そうな視線を向けてきた世話係に、アイコンタクトで「私は大丈夫だから」と伝えると、それが伝わったのかは知らないが、世話係は複雑そうな表情を残して、部屋を出て行った。
扉が閉まる音がして数秒置き、私は腰に手を当てて男を見上げた。