冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「全く、悪趣味ね」
悪態をついて、この手枷が外れたりしないかと壁に木を叩きつけてみるが、両横につけられた鉄製の鍵はビクともしない。
その音を聞きつけて来たのか、鉄格子の外から鉄製の扉が開く、錆びた音がした。
「おはようロゼッタ……いや。イリヤ・アシュフォード」
聞き覚えのある声に眉根を寄せて、私は鉄格子に手枷を叩きつけた。
「クリストフ、これは何の真似?」
怪しげな微笑みを浮かべて、悠然と佇むクリストフ王子を睨みつける。
どうやら、彼はロゼッタのことを調査した果てに、私のことにまで辿り着いたようだ。
「スカーレット伯爵夫妻の双子の片割れ。どうやら、生まれた時に赤の他人として、君は庶民に引き渡されたようだけど」
「証拠は?」
クリストフ王子は腰に下げていた鍵の束を取り出し、その一つを鉄格子を封じている南京錠の鍵穴に差し込んだ。
「《血印の書》が保管されていた地下室の書斎の中にあった書類。迂闊だったね。書物に記録を残すなんて」
「……あなたがしたことは犯罪よ」
私が言い終わるのと同時に南京錠がけたたましい金属音を立てて床に落ちた。