冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「ヴァローナ……!」
褐色の肌に、闇夜を思わせる漆黒の髪。
それと同じく、闇に紛れるような漆黒の燕尾服に漆黒の外套が、彼の動きに合わせて揺れる。
「城の護衛はかなりの精鋭に頼んだつもりだが……なるほど」
カツ、とヴァローナは履いているエナメルの靴で床を打ち鳴らし、ゆっくりと階段を降りてこちらへ向かってくる。
ヴァローナの血か、はたまた返り血かで汚れた外套を脱ぎ捨て、彼はこちらに向かって――いや、クリストフ王子を威嚇するようにナイフの切っ先を突き出している。
「君は世界の脅威として狩り尽くされたはずの、戦闘民族の生き残りだね」
「っ、なに……!」
クリストフ王子に強く手首掴まれ、引き寄せられた。
決してそれは甘い睦言のための行為ではなく、私を人質として利用するためのものだった。
首に腕を回されて、少し捻られたら私の首の骨はいとも簡単に折れてしまうだろう。