冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「すまない、来るのが遅れた。何もされていないか?」
「私は大丈夫よ。この通り、怪我もないわ」
クリストフ王子に多少手荒な真似はされたものの、傷一つ付けられていない。
彼を安心させるように目を見てそう言えば、あまりの距離感の近さに驚いて、慌てて彼から離れた。
「それより、ヴァローナが……」
私は気恥しさを誤魔化すようにそう話題を切り出すが、エリオット王子は大したことはないといったように、少しだけ乱れた服の裾を直した。
どこから持ち出したのか、この城の給仕が着ていたような燕尾服を身にまとっている。
「ああ、問題ない。それに関しては計画通りだ」
「計画……?」
彼が何のことを言っているのか理解できず、首を傾げていると、鉄製の分厚い扉を挟んでも聞こえてくる騒音や怒声に、私は目を丸くした。
「ヴァローナならこんな鉄格子、素手で曲げられるさ」
そう言いながら私が閉じ込められていた鉄格子を軽く叩いて、悪戯が成功した子供のように舌を出してみせるエリオット王子に、私は全てを察した。