冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「まさかあなた、彼を囮にするためにわざと……!?」
「さあ、時間がない。ヴァローナが引きつけてくれているうちに、逃げよう」
「話を聞きなさいよ!」
エリオット王子はこれ以上取り合う気はないといった様子で立ち上がり、懐から紙袋を取り出して、私の足元に投げ付けた。
「これは……?」
「それに着替えろ。この城で女の格好をしていたら目立つからな」
紙袋の口を開けて中を覗き見ると、男性物のシャツやブラウス、タキシードパンツが入っていた。
今の私は髪を短いため、一瞬すれ違っただけでは女とはわからないだろう……が、この胸のささやかな膨らみは、どうしろと言うのか。
「気にするほどではないだろう」
自分の胸に手を当ててうんうん唸っていると、エリオット王子が呆れたようにそう言うので、私は空になった紙袋をその端正な顔に向かって投げ付けた。