冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「失礼ね!レディになんてこと言うの!」
怒りで震える私に、エリオット王子は目を白黒させている。
「そういうつもりじゃなかったんだ……すまない……」
シャツの上からジレを着るためそんなに気にするほどのことではない、と言いたかったらしい。いくら何でも、言葉が足りなすぎる。
「もう、いいわ!着替えるからあっち向いていて!」
誤解が解かれても納得はできず、憤慨したままでエリオット王子の肩を押す。
彼は複雑そうな表情をして、鉄格子の外に出て、私に背中を向けた。
薄手のネグリジェを脱ぎ捨てて、白いシャツに袖を通す。
私の身体より一回りくらい大きいが、問題はないだろう。シャツのボタンを掛け違えないように一つ一つ丁寧につけながら、私はエリオット王子の背中に向かって話しかけた。
「それより、大丈夫なの?あなた、召使いの格好をしているけど、顔を覚えられているんじゃ……」
「ただの召使い達にはわからないさ」
クリストフ王子には完全に顔を覚えられているだろうに、そこには触れないエリオット王子に呆れてしまった。
タキシードパンツの腹囲をベルトで絞り上げながら、私は小さく、乾いた笑い声を漏らした。