冷徹王子と成り代わり花嫁契約
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どうやらヴァローナが城中を駆け回り、兵士や従者を撹乱してくれているらしい。
私達がいるのとは反対側にある階段の方が、どうにも騒がしい。
私とエリオット王子は何かあった時のために、お互いの手が届く距離を保ちながら、屋敷内を急ぎ足で歩いていた。
従者達が慌ただしく隣を駆け抜けていくたびに、心臓が嫌な音を立てる。
しかし、堂々と歩いていれば案外、気に留める者はいなかった。緊急事態のため、そんなことを気にしている暇はないということもあるだろうが。
足音が聞こえて、驚いて振り向くと、こちらに向かって走ってくる人の影が見える。
エリオット王子もそれに勘づいたらしく、私を背後に隠すようにして立った。
「もう嗅ぎつけたみたいだな。イリヤ、あとは一人で行け」
「ええ!そんなの、無理よ!」
いたぞ、だとかこっちだ、とか、見知らぬ従者達の怒声が響き渡る。
予想通りそれは私達に向けられているようで、エリオット王子と同じ燕尾服を着た数人の男達が真っ直ぐこちらに向かって走ってきているようだった。