冷徹王子と成り代わり花嫁契約

「この廊下の突き当たりの、階段を下りろ。右から三番目の扉が書斎の入り口だ。そこの一番奥の棚の裏側に抜け道を作った。君はそこから逃げるんだ」


小声で私にそう伝えて、エリオット王子は懐から取り出した鞘付きのナイフを私の手に握らせて、私の肩を強く押した。


「逃げるって……そこから出て、どこに行ったらいいの?」

「すぐにヴァローナが合流する手筈になっている。とにかく、今は何も考えずに、言われた通りに走れ」


早く行かないと、すぐに追いつかれてしまう。

わかってはいても、足が動かない。私が逃げたあと、エリオット王子はどうするの?もし、捕まってしまったら……。

そんなことを考えていると、私達のいる位置から一番近い曲がり角から、兵士の格好をした男が飛び出してきた。

よく見ると、剣を振りかぶっている。


「え、エリオット……!」


咄嗟に目を瞑って視線を逸らすが、何かがぶつかるような音と、エリオット王子のものではない呻き声が聞こえて、恐る恐る薄目を開けた。


「安心しろ。俺は体術も得意だからな」


エリオット王子の足元にうずくまる兵士と、その手からこぼれ落ちた剣を拾い上げて、振り向きもせずにエリオット王子はそう言った。


「健闘を祈るわ」

「ああ」


私は安堵のため息をついて、床を蹴り上げた。

今は、エリオット王子とヴァローナを信じるしかない。


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