冷徹王子と成り代わり花嫁契約

「これって……」


それが《血印の書》だと、熱を持った指先が直感に告げていた。

(これさえ持ち出せれば、この馬鹿げた争いも、偽りの関係も、終わらせられる……)

私は意を決してその背表紙に指を掛けて、その一冊だけを本棚から引きずり出す。

いつしかエリオット王子に見せてもらった模造品と同じく、薔薇の模様が表紙に刻まれた、小口に小さな鉄製の鍵の加工が施された赤い本だった。

《血印の書》が完全に本棚から離れる瞬間、カチリと音がして、そこに仕掛けられていたらしい細い糸が、私の指先に絡みついた。


「しまっ……」


外そうともがけばもがくほどに糸が絡んで、どこか遠くでけたたましく鈴の音が鳴り響く。

相手を拘束するためだけではなく、これには《血印の書》を持ち出そうとした者がいることを報せる役割もあるらしい。

ある程度の糸が手首から外れた時には、背後から扉を強く叩く音が聞こえてくる。


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