冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「君は嘘が下手だな」
私が不自然に後ろに回した手を取って、姫君にするように恭しい動作で自分の目の前へと持ち上げた。
「念の為医者を手配しよう。俺の大切な婚約者に何かあっては困るからな」
「……無理をして婚約者だなんて、言わなくていいのよ」
そそっかしくて向こう見ずで、淑女らしからぬ振る舞いばかりしてしまう女が婚約者など、教育の行き届いた一国の王子にとっては負担でしかないだろう。
「君は、俺が契約で決められた婚約者だから優しくしていると思っているのか?」
「違うの?」
思わず口をついた可愛げのない言葉にしまった、と思い、不快にさせていないかと彼の様子を伺うために顔を上げる。
予想に反して、彼は見たこともない穏やかな表情で私を見下ろしていた。