冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「これまでの君への無礼、済まなかった。失った信頼を取り戻すのと――俺の気持ちが少しでも伝わるよう、努力しよう」
エリオット王子はすくい上げた私の手に唇を寄せた。
その唇が手の甲に触れたのを見て、居心地の悪さと照れ臭さで、軽く手を振り払った。
「今後のことについては、追々決めよう。君はしばらくゆっくり休むといい」
今後……恐らく婚姻のことや、王位継承のことを指しているのだろう。
まだ正式に彼の婚約者であることを実感出来ていない私は、戸惑いで何も答えることが出来ない。
「それから、一度育ての親の元へ行こう」
「あなたも一緒に来てくれるの?」
「もちろんだ。可愛い婚約者を大切に育ててくれた恩人だからな」
そう言って、エリオット王子は穏やかな表情で微笑んで、私の手を離す。
彼に触れられ熱を持った手のひらを、もう片方の手でぎゅっと握り締めて私は俯いた。
「この程度の口説き文句で照れるとは、骨が折れるな」
エリオット王子が何かを小さく呟いた気がしたけれど、私が顔を上げた時には彼はもう私に背中を向けて歩き出していたので、聞き返すことは出来なかった。