冷徹王子と成り代わり花嫁契約
エピローグ 溺愛王子と未来の花嫁
エリオット王子の見立てによって選ばれた、胸元が大胆に空き、そこに薔薇をあしらわれた真紅のドレスに身を包んでいた。
鞭がしなる音から程なくして、馬車が止まる。
隣に座るエリオット王子から木枯らし色のショールを受け取り、それを肩に羽織る。
従者の手によって開けられた馬車の扉から、エリオット王子が先に降り、続いて彼のエスコートで私も地面に降り立った。
決して豪華ではないけれど、レンガを積み上げて造られた丈夫そうな小さな民家を見上げて、私は覚悟を決めて大きく息を吸った。
「こんにちは。イリヤよ」
木製の扉を三度ノックしながらそう声を掛けると、程なくして中からパタパタと誰かが駆け回る音が聞こえた。
「イリヤ!」
けたたましい音を立てて扉が開け放たれ、私はびくりと肩を跳ねさせた。
出てきたのは私の育ての親である、初老の女性――ではなく、長いウェーブがかった金髪を揺らす、美しい少女だった。