冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「なら質問を変えるわ。あなたと入れ替わりで出て行ったあの世話係の女性は?」
「ミセス・リフェルですね。ロゼッタ様の幼少期からの世話係であり、教育係でございます」
「ありがとう。それだけ分かれば十分だわ」
一日の半分近くを共に過ごすであろう側近の者の名前を知らなくては不便だし、何か不審に思われても困る。
今日の収穫はとりあえず、これだけで十分だと思おう。
「それで、私に何か用があって来たんでしょう?」
「はい。エリオット様から、しばらくは私が教育係になるようにと」
その言葉に私が弾かれるように顔を上げると、ヴァローナの闇夜のような瞳と視線がぶつかった。
私が何か言うよりも先に彼の方が視線を逸らしたので、私は嫌でも真意を察してしまった。
私が妹として生活を送るため、何かと困るだろうからというのは建前で、恐らくは私の行動を監視するためだろう。
「あなた、よく嘘が下手だと言われない?」
思わず私が呆れ顔でそう言うと、ヴァローナはぱちぱちと二、三度瞬きをして、私の目を見つめ返した。
「何故分かったのですか?……あ」
私の言葉に素直に乗ってしまったらしい彼は、これ以上失言をしないようにと、慌てて口を噤んだ。
そんな様子を見て、私は苦笑いを零したのだった。