冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「それでは、本日は休日となりますが、明日からは勉学や公務に励んで頂きます」
仕切り直しと言わんばかりに姿勢を正し、ヴァローナは淡々と告げながら、どこからか大量の書物と書類を取り出し、木製のテーブルの上に置いた。
育ての親が所有する家の、本棚にあった医療本よりも分厚いそれを目を白黒させながら彼を見上げると、何を考えているか分からない黒い瞳とぶつかった。
「……これは何?」
「強制ではないですが、予習されるのであればと、必要そうなものをお持ちしました」
あくまで私の意思決定に委ねるといった口ぶりではあるが、わざわざ持って来たということは「予習をしておけ」という事なのだろう。
積み上がった紙の束の一番上をつまみ上げてみると、絵本でちらりと読んだ事のある他国の言語がつらつらと書かれているのが見えた。
「……貴族の娘も大変なのね?」
「はい、一日の大半が勉学ですね」
「私は部屋にこもって勉強するより、外で仕事している方が好きだわ」
一般庶民として暮らしていた頃は、掃除や洗濯、育て親である夫婦が経営していたパン屋の営業を手伝ったりと、それなりに多忙で充実した日々を送っていた。
そして、王宮に従者として呼ばれてからも洗濯や掃除、買い出しなど、常に動き回る仕事をしていたのだ。
それがいきなり籠の鳥になれだなんて、慣れるまではとても心労が溜まりそう。