冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「あなたはスカーレット伯爵のご息女、ローズ・スカーレット様です。エリオット・ファーガソン王子の、ご婚約者様です」
「わかってるわよ。妙な気は起こすなって事でしょう?」
私は今、妹として生きている。
便宜上ではあるが伯爵の娘となっているロゼッタが、下働きの者と共に仕事などして、それが発覚したら王室の顔に泥を塗ったも同じ。
国民だけではなく、国外の、この国や王室を良く思っていない他国の王室にまでつつかれてしまう可能性もなくはないのだ。
貴族でありながら汚れ仕事をするような品の無い女を一国の王子と結婚させるなんて。
それが世間の評価になる。私や王子がどう思おうと。
「ねえヴァローナ、私の名前は知っているの?」
「ロゼッタ様です」
「そうじゃなくて、私の本当の名前」
すかさず返ってきた言葉に、私は苦笑いをしながら首を横に振る。
彼がどこまで何を知っているか探るための質問だったのだけれど、やはり余計なことは言うなと命令されているのか、ヴァローナは少しだけ困ったように眉根を寄せた。
意地悪をしてしまったかしら、と思い謝罪の言葉を口にしかけて――扉の方からカタリと物音がして、弾かれるようにそちらを見た。