冷徹王子と成り代わり花嫁契約

「イリヤ・アシュフォード」


凛とした、低音なのによく通る美声が室内に響き渡る。

その声で呼ばれたのは、確かに私の真名だった。

声の主で誰かは分かりきっていたが、確認のためにその人物に視線を向ける。
まさに先程少しだえ話に出てきていた、エリオット王子だ。

剣か乗馬か、何かしらの稽古の後なのだろうか。普段の、裾の長い、必要なのかも怪しい装飾品で溢れた洋服ではなく、軍人が着ているような動きやすい軽装で、装飾品もほとんど身にまとっていない。

腰にはサーベルと、それを収めるための鞘とベルトが巻かれている。どうやら剣の稽古の後だったようだ。


「……あまり不用意な発言をするな。どこで誰が聞いているか分からないからな」


エリオット王子は眉根を寄せて、大股でこちらに向かって歩みを進める。


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