冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「ちょっと、ノックは?」
「何度もした。随分とお喋りに夢中だったようだが?」
エリオット王子は、冷や汗をかいて口元を引きつらせる私を一瞥したかと思うと、すぐに視線を逸らして直立不動のヴァローナに向き直った。
肩を叩くようにして掴まれたヴァローナは、少しだけ頬をピクリと動かして、彼から顔を逸らした。
「……私は、何も話していません」
それまでほとんど感情の変化を見せなかったヴァローナが、私から見て分かるほどに狼狽していた。
威圧するように顔を近付けてくるエリオット王子と目を合わせないように首を捻っている。
「お前のことだから上手く誤魔化せなかったんだろう」
「……ですが、余計な事は何も」
尚もエリオット王子に詰め寄られ尋問されるヴァローナに、私は同情を覚えて、重たい腰を上げて立ち上がった。