冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「彼は何も話してくれなかったわ。本当よ」
私が出した助け舟に、ヴァローナはほんの少しだけほっとしたような表情をした。
それを見たエリオット王子は面白くなさそうな顔をしてヴァローナから少し離れ、私の方を向いて腰に手を当てた。
「そもそも君が余計なことを聞かなければ、彼を責める必要もないんだけどな」
ため息混じりに言われたその刺々しい言葉に、私は眉根を寄せてエリオット王子を睨み付ける。
「……本当にいけ好かない男ね」
「口を慎みたまえ」
私の悪態を浴びても、男は端正な顔立ちを歪める事もなく、淡々と跳ね除けた。
「あなたが何も教えてくれないからじゃない」
むっと唇を尖らせてそう言うと、エリオット王子は鼻を鳴らして笑ったかと思うと、私の方に向かって歩いてきた。
その頬に出来た髪の毛の影が、威圧感を助長してにわかに恐怖を覚えた。