冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「な、何よ……」
あまりに私が生意気な態度を取るから、怒らせてしまったのかと身構える。
しかしエリオット王子は私を見下ろしたかと思うと、おもむろに革製の手袋を歯で噛んで外し、その長い指先を私の頬に伸ばした。
「そんなに俺のことが知りたいか?」
「え、ええ……教えて貰えるのなら」
正確にはあなたのことより、あなたの思惑だけど。
そんな言葉は胸にしまって、触れられたことに動揺をしないように気を強く持つ。
この男に弱みを見せたらおしまいな気がするのだ。
「なら、今夜俺の部屋に来るといい」
女を誘惑するような低い声が耳元で響いて、私は思わずくすぐったさに肩をすくめた。
「本当に教えてくれるの?」
私がそう言ってエリオット王子を見上げると、思わぬ反応だったのか、彼は目を剥いて私の瞳を見つめ返した。
「君が俺の心を暴いてくれるのなら」
それだけ言って、エリオット王子は私に背を向けて部屋を後にした。
扉が閉まる音を聞いてから数秒の沈黙。
恐怖からか、未だに固まっているヴァローナに声をかける。
「その……ごめんなさい。私、あの人に直接聞くことにするわ」
「……そう、ですか」
色々言いたいことはある、といった顔をしたヴァローナだったが、静かに頷くだけでそれ以上は何も言って来なかった。