冷徹王子と成り代わり花嫁契約
二章 真夜中のティータイム

エリオット王子が稽古や公務を終えて自室に戻ったとヴァローナから告げられたのは、夜の帳が下りた頃だった。

一日が終わりこれから就寝の準備をして、さあ本でも読もうかと言う時だったために、私はクリーム色のネグリジェを身に纏って薄暗い廊下を歩いていた。
私の部屋から彼の部屋に行くには、庭と繋がる吹き抜けの廊下を進まなくはならない。

今日はいつもより少しだけ風が強く、吹く頻度も高いようだ。私は小さく身震いをして、肩からずり落ちそうになる薄手のショールを右手で掛け直した。

直後に足元から渦を巻くようにして吹いた風が、私の左手に持っていた燭台と、蝋燭の火を揺らした。

そのまま、頼りなかった灯火はあっけなく闇夜へと溶けてしまった。


「嘘でしょう……」


足元を微かに照らす月明かりを背に、私は呆然と立ち尽くした。

この廊下は外の上がりがあるから、蝋燭がなくても歩こうと思えば歩くことが出来る。しかし彼の部屋はまだ先。

手探りでなんとか、辿り着けるだろうか。一度自室に戻るべきか……顎に手を当て、そんなことを考えていると、進行方向からぼんやりとした明かりが見えた。


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