冷徹王子と成り代わり花嫁契約

「だ、誰……?」


こんな夜中に出歩く物好きはそういないし、見回りの兵士だろうか。

それなら事情を説明して火を分けてもらって……いや、王子の部屋に行こうとしています、だなんて口が裂けても言えない。
いくら婚約者相手とはいえ、未婚の女が夜中に男の部屋に訪問するだなんて、確実にお小言だけでは済まない。

どうやってこの場を切り抜けようかと思案しているうちに、明かりはどんどんこちらへ近付いてくる。

苦し紛れに近くにあった柱の後ろに隠れて、その人物の顔を確認しようと少しだけ顔を覗かせる。


「そこにいるのは誰だ?」


凛と張り詰めた声が廊下に静かに響いて、聞き覚えのあるそれに私は目を丸くした。

こんな時間に廊下を歩いていた物好きは、私がまさに訪ねようとしていたエリオット王子だった。


「……ええと、私よ」


数拍の沈黙の後に、そろっと柱から姿を現すと、エリオット王子も先程の私と同じく目を丸くした。

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