冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「そうか、分かった。それならエスコートしよう」
「書斎は行かなくていいの?」
「寝るまでの暇潰しにと思っていただけだから、もう必要ないさ」
上質な絹糸で丁寧に織られた寝間着を翻して、エリオット王子は私の身を守るようにして、一歩後ろに下がった。
先程の張り詰めた空気間から一変して、なんとも言えない穏やかな空気になったことに私は戸惑いを覚えながら、彼の歩みに合わせて足を進める。
「ヴァローナとは上手くやっているか?」
「私はそのつもりだけど、彼がどう思っているかは知らないわ」
「彼は寡黙だからな。あまり良い遊び相手にはならないとは思うが、気は良い奴だ」
「そうね……」
元々のヴァローナの性格もあるだろうが、それに加えて本来の主人からの「余計なことを喋るな」という命令がある。
あの後ヴァローナが発した言葉は「かしこまりました」「ただ今」「はい」「わかりません」だけだ。
あまりに情報が少なすぎて、彼が私のことを好いているのか嫌っているのかなんてわかるはずもない。
もしくは、何も感じていないかもしれない。