冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「ところで、私を守るためって、どういうこと?」
リンゴのような、ほのかに甘い香りを放つティーカップの中身を見下ろす。
この香りと、薄黄色でハーブティーと言ったら、恐らくカモミールティーだろう。
口内を火傷しないように軽く口をつけて、舌先をつけると、わずかに独特の苦味を感じて、ため息をついた。ハーブティーの中では、カモミールティーが一番好きだ。
「……《血印の書》。聞いたことはあるか?」
「けついんの、しょ?」
エリオット王子の口からするりと出てきた聞き覚えのない単語を、ぎこちなく復唱すると、彼は予想通りの反応だったと言わんばかりに、ティーカップをソーサーの上に置いた。
「王位継承の為のレガリア。王冠、剣、宝石、それは国によって違いはあるが、この国では王位継承の象徴が書物となっている」
「それが《血印の書》と呼ばれているのね」
王冠や剣だと露骨にレガリアだと知られてしまうが、書物となれば知られたとしても特定をするのは難しいことだろう。 それで、あえて珍しい書物という形状を選んだのか。
エリオット王子はおもむろに立ち上がって、書類が詰まった小さな本棚に手を突っ込み、奥に隠されていた分厚い本を取り出した。