冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「それが、《血印の書》……?」
漆黒の闇を思わせる表紙に、中央は薔薇の形に白くくり抜かれており、そこから本全体に絡みつく蔦のように、同じくくり抜かれた装丁になっている。
本の小口の部分には、金で出来た小さな錠前が取り付けられていた。
「いや、これは精巧に作られた模造品だ。本物はここにはないよ」
「そうよね……盗まれたりしたら大変だもの」
いくら次の国王になるであろう王子の部屋とはいえ、そんな無造作に管理するはずもない。
我ながら少し浅はかな発言をしてしまったと恥ずかしくなり、誤魔化すようにハーブティーを飲み下した。
「本物には特殊な魔術が施されていてね。特定の者の血液に反応して、錠が外れる仕組みになっている」
「血……まさか、そのために妹を殺したんじゃないでしょうね!」
「違う。最後まで聞いてくれ」
思わず感情が昂り立ち上がってしまった私を、エリオット王子は呆れ顔で宥めた。
淑女らしからぬ反応をしてしまったことに恥じらいを覚えつつ、私は椅子に座り直すことにした。