冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「まあそれについてはヴァローナが極秘で調査を進めてくれている。次期に分かるさ。それよりも今は君を保護することの方が先決だった」
私の教育係もし、調査もするとなるとヴァローナは休めているのだろうか。
少しだけ彼の身体が心配になるけれど、これほどエリオット王子が信頼を寄せて任せているということは、大丈夫なのだろう。
「……今までのことから推測するに、《血印の書》を盗んだ者に、妹は本当の妃ではないことを知られている。そうすると、他に誰かがいる。いずれは私の存在に辿り着くだろうと危惧したあなたは何としてでも私を……私の血を守りたかった。しかし、ただの従者にボディーガードを付けるとなると、無関係な人間にまで怪しまれる可能性があったから……どこか間違ってる?」
「ご名答。さすがだ」
「でも、それなら私が妹に成り代わるのはまずいんじゃない?」
殺したはずのローズ・スカーレットが、何食わぬ顔をして今も、エリオット王子の婚約者として王宮で生活をしていると知られたら、それこそ私は命を狙われてしまうだろう。
「慌てて逃げて行ったから、トドメを刺したかまでは確認していないだろう。彼女が亡くなったことは機密情報。俺とヴァローナしか知らない事実だ。まさかこの国に、容姿の何もかもが瓜二つの二人の人間が存在していると思わないだろうからな」
「誰にも気付かれずに王宮に侵入して儀式にまで参加していた切れ者に、そんな子供騙しが通じるのかしら……」
不安要素は一つでも潰しておくに越したことはない。
私は心配になり、すっかり冷めてしまったティーカップを握り締めてエリオット王子を見つめた。
「まあ、その時はその時だ」
私の不安に反して、エリオット王子は呑気にも、優雅に微笑んで見せたのだった。