冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「……何故そう思う?」
流石国の頂点に立つべき人間と言うべきか、先程までの焦燥感の一切を消し去り、男は再び淡々と私に問い掛けた。
「私を呼び出した時、王宮内は物静かだったわ。あなたと離してる最中に、突然騒がしくなった。恐らく従者がそこで初めて、妹の死体でも見つけたというところかしら」
日頃からよく研いでいたナイフとはいえ、雑多に使用していた切っ先により傷んだ髪の毛に手櫛を通しながら、私は顔を上げた。
「詰めが甘いんじゃなくて?」
彼は私に、「お前の妹が何者かによって暗殺された。現状分かっていることはそれだけだ」と言った。それも、従者がそれを知るより先に。
偶然通りかかり、彼が発見者となった可能性もなくはないが、それならその段階で従者を呼んでないのは不自然だ。
恐らく早く事を進めたかったらしい彼は、そこまで気が回らなかったのだ。
従者と口裏を上手く合わせておけば良かったものの、彼は私を早々に呼び出してしまった。
彼女が暗殺されることを知っていなければ、それをする理由がない。