冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「本日は朝から取り引きの下調べのため隣国へ訪問しております。それ以降はこちらにお戻りになって公務をされるご予定となっておりますが」
「ああー……うん、そうね。ありがとうヴァローナ」
期待を一切裏切らない、彼らしい生真面目な返答に苦笑いをして、私は再び手元の紙に万年筆の先を滑らせた。
しばらくすると、ヴァローナが肩を強ばらせて身構えたのが空気感で伝わり、私は怪訝に思い再び顔を上げた。
壁越しに響いてくるそこの厚い靴の音。
しばらくしてからおもむろに扉が開け放たれて、その風圧で机の上に積み上げていた書類のいくつかが床に散らばってしまった。
「失礼する。俺だ」
「本当に失礼ねあなた」
ノックもせずに部屋の扉を乱雑に開いた犯人は、つい今しがた話題に上っていたエリオット王子本人だった。
これまで見てきた軽装とは違い、軍人が着ているような、詰襟で腰丈まで長さのある、白を基調としたチュニックを身にまとってる。
その上に、彼の足元に付かない程度の際どい長さのサーコートを靡かせ、彼は切れ長の瞳を鈍く輝かせて、涼しい顔で立っていた。