冷徹王子と成り代わり花嫁契約
隣国の訪問をしたその足でここに来たのだろうか。
正装で凛と佇むその姿に、一国を治める人間の血を感じさせる。
改めて見ても、その気がなくとも惚れ惚れしてしまうような容姿端麗な男に一瞬気後れしたが、私はゆっくりと立ち上がって、負けじと背筋を伸ばした。
「何かご用かしら?レディの部屋に不躾に訪問したのだから相応の事情があるのよね」
「すまない。少し気が動転していたんだ」
気が動転していた、と言うわりにはあまりに冷静すぎる様子だが、心の内までは分からない。
ノックもせずに入ってきたことに対しての小言はここまでにすることにして、私は何を言われるのかと身構えて、エリオット王子を真っ直ぐに見つめた。
「そんなに見つめられると照れるな」
「あなた、少し黙れない?」
自らレディと言うくらいだから少しはレディらしく振る舞おうと思っていたが、どうにもこの男の前では調子が狂う。
そもそも、彼は立ち振る舞いこそ一流階級のそれだが、私への扱いが粗雑すぎるのだ。
思わず私もくだけた態度になってしまう。