冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「いただきます」
それにならって、私も遠慮がちにケーキフォークに手を伸ばす。
もう一度、目線を女王陛下にやると、彼女は私と目が合って、召し上がれと言わんばかりににこりと笑った。
少しだけ恥ずかしくてすぐに視線を逸らして、タルトにケーキフォークをゆっくりと入れた。
切り分けて食べやすいように、リンゴが小さめにカットされて盛られているので、形を崩すことなく綺麗に切り分ける事ができた。
このタルト・タタンを作ったパティシエは有能だわ、なんて思いながら一口にしたタルトを口に押し込んだ。
砂糖とバターで甘く煮詰められたリンゴが口の中でとろけて、じんわりと喉奥まで濃厚な甘さが広がっていく。
「美味しい……」
キャラメリゼがリンゴの酸味で中和され、甘いながらにしつこさがない。
タルト・タタンのタルト生地はしっかりしているのに、噛めばほろほろと崩れ落ちて溶けるように消えていく。
その絶妙なバランス思わず感嘆の声を漏らすと、女王陛下はくすくすと、口元に手を当てて上品に笑った。