冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「ふふ。腕によりをかけて作ったかいがあったわ」
「……っ!?」
鈴を転がしたような綺麗な声で、さらりとそう言ってのけた女王陛下。
私は思わず口に含んだタルトを吹き出しそうになり、ぐっと堪えた。
はしたないと思いつつも手で少し待って欲しいと制止のポーズをとり、咀嚼して口の中が空になってようやく、口を開いた。
「このタルト・タタン……もしかして……?」
「私が作ったのよ」
「す、すごい……」
料理やお菓子作りも、この王宮では一般教養に入るのだろうか。いや、でも私の教育の中にはなかったような……。
「ふふ。私のささやかな趣味なの。あまり良い顔はされないけれど……」
穏やかに、けれど、どこか切なげに笑う女王陛下に、先程の思考はあっさりと否定された。一国を納める王の妻が、趣味とはいえ料理やお菓子作りなどをすることは、あまり良いとされてはいないのだろう。
庶民生まれの私からして見ると、そんなことは個人の自由ではないかと思ってしまうけれど。