冷徹王子と成り代わり花嫁契約

薔薇の紋様が彫られた重厚な扉を、身体の重さ全てをかけて押し開ける。

ドレスの端が汚れないように細心の注意を払いながら、薔薇が蔦を伸ばすために設置された、人間一人が悠に通れるアイアンフェンスを潜り抜けた。

石造りの足場の悪い道を、転ばないようにとパンプスを脱いで歩いていると、ふと前方にしゃがみ込んで薔薇を見つめる人影があることに気が付いた。


「……どなた?」


思わずそう口に出すと、そこでようやくその人物は私の存在に気が付いたらしく、はっとした表情で顔を上げて立ち上がった。

白いシャツの上に纏う、腰まである白いジャケットには金色の糸で薔薇のように刺繍を施されている。服装を見るに、かなりの身分の者だろう。


もう少し視線を上げてみると、周囲の色を吸い込んで反射しているかのような、光の加減で色を変える銀髪が靡くのが見えた。

エメラルドグリーンの瞳が驚きに見開かれ、私を見つめている。

その視線の先を辿ってみると、自分の指先にぶら下げられたパンプスがあった。

私は慌ててそれを背後に隠して、はしたなく晒された素足を見られないようにドレスの裾を離した。今更取り繕っても、遅いのだけれど。


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