冷徹王子と成り代わり花嫁契約
五章 誘惑のラビリンス
「ええと、エリオット王子の部屋は……」
ロゼッタの元お世話係であるリフェルに頼み、用意してもらった紙袋に、昼過ぎにに自分で作ったタルト・タタンを入れて抱きかかえ、私は王宮内を彷徨い歩いていた。
昨夜、いきなりキスをされそうになったとはいえ、あまりに冷たい態度を取ってしまったと猛省した。
あれは驚いてしまって、だとか、私のせいじゃない、など、どれだけ言い訳と自分への慰めの言葉を思い浮かべても、罪悪感が消えることはなかった。
勉強も身に入らず、もはや今日は何を覚えようとしていたのかすら、思い出せない。
自己満足と言われてしまえばそれまでだが、とにかくエリオット王子にお詫びをしたくて、女王陛下に教えていただいたレシピを見て、自分でタルト・タタンを焼いてみたのだ。
「それで、何かわかったのか?」
ふと、通りかかった部屋の扉から、微かだが探していた人物の声が聞こえてきて、私は安心から頬を緩めた。