冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「……君か」
恐怖と驚きで目を丸くして固まる私を見て、エリオットはほっと安堵のため息をついて、胸を撫で下ろした。
「ご……ごめんなさい。盗み聞きするつもりはなかったの。あなたを探していて……それで、たまたま話を聞いてしまっただけ」
暑くもないのに額に汗をかきながら、私は動揺を隠せずに、聞かれてもいないことを矢継ぎ早に話した。
すると、ヴァローナも表情は変えずに、安心したように肩の力を抜いて、ナイフを下げた。
「いや、構わない。君には話すつもりだったからな。手間が省けた」
ヴァローナが部屋の中に戻り、定位置であろう、エリオット王子のそばに佇む。
視界が開けたエリオット王子は、ふと、私の足元に視線を落として、指をさした。
「それは?」
彼の視線を辿って、自分の足元を見ると、見覚えのある紙袋が落ちていた。
はっとして手元を見る。先程まで手にしていた、タルト・タタンの入った紙袋を、いつの間にか動揺のあまり落としてしまっていたらしい。