冷徹王子と成り代わり花嫁契約

「紅茶を淹れようか?」

「いいえ、結構よ。お気遣いありがとう。これからまた少し、勉強にしなくてはいけないから」


彼の好意を無下にはしないよう、丁寧な口調と声音でそう答えて、首を横に振る。

エリオット王子は静かに頷いて、私の向かいにある椅子に腰を下ろした。


「えっと、女王陛下に教えてもらったタルト・タタンを作ったのだけれど……さっき、落としてしまったから、崩れてしまったかも……」

「俺は構わない」


エリオット王子は、腕の中にある紙袋をいつ差し出すのかと、子を見守る親のような優しい瞳でじっと見つめてくる。


「お口に合うかもわからないし……」

「君が俺のために作ってくれたんだろう。口に合わないわけがない」


私の迷いを真っ直ぐに打ち消したエリオット王子は、首を傾げて優しく微笑んだ。

エリオット王子は、いつも冷たい無表情か、他者を嘲るような表情ばかりを見せていたような気がする。

だから余計に、そんな表情もするのかと、心臓が大きく跳ねた。

それと同時に、彼の父である国王陛下の穏やかな微笑みを思い出して――これが、親子の血か。


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