冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「……ヴァローナも口が軽いな」
ヴァローナが責めるような声音ではない。
どちらかというと、自嘲するような響きの声でそう言って、エリオット王子は自分の左腕のシャツを捲り上げてみせた。
「この通り、掠っただけだ」
躓かないよう、ゆっくりした足取りでエリオット王子のいるベッドの方へ歩みを進める。エリオット王子は、こちらを見ない。
「皆が大袈裟でな。一日大事を取れと、部屋に軟禁されてこの通りだ」
掲げられた左手を見ると、肩と肘にかけた部分に包帯が巻かれていた。
覗き込むようにして角度を変えてエリオット王子の身体を隅まで見るが、他に怪我はなさそうだ。
「良かった……」
ほっと安堵のため息をつくと、糸が切れたように足から力が抜けて、私は床にへたり込んだ。
ヴァローナが真剣な顔でエリオット王子が怪我をしたというから、心配で無意識に全身に力を入れてしまっていたようだ。
――否、ヴァローナはいつも表情の変化に乏しいということを、今になって思い出したが。