冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「あら、髪をお切りになったのですね。よくお似合いですよ」
「……ありがとう。私も気に入っているの」
自分でナイフで切り落としたとは言えず、私は少し考えてから、当たり障りない返答を口にした。
私が妹と実際に顔を合わせたことがあるのは、彼女が王子の婚約者になる前。
蝶よ花よと大切に育てられた彼女は、とても純粋で、上品な可愛らしい人だった。
こう言っては育ての両親には悪いけれど、下流階級の家庭で外を走り回って育った私とは正反対の、まさに上流階級の娘といった印象だったのだ。
そんな野蛮なことは、絶対にしないだろう。
「では、まずはお召し物から失礼致しますね」
恭しく手渡されたリネン製の肌着と、スカートの下に履くペチコート、羊毛で丁寧に織り込まれた膝下までのストッキングを受け取り、私は木製の椅子に腰掛ける。
私がそれらを着用している間、妹の世話係と思しき女性はゆったりとした動作で寝具を整え始めた。
――今まで使用人として働いていた私は、自分一人で着られるような軽装のドレスしか身に纏ったことがない。
上流階級の娘が身に纏うドレスは、誰かの手を借りないと着ることが出来ない代物ばかりだ。
これからも、世話係の手を借りることになるだろう。早いうちにあの男から、ロゼッタの身辺情報を聞いておかないと。
なんてことを考えていると、木製の扉が軽く叩かれる音がして、私は着替えの手を止めて世話係と顔を見合わせた。