冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「今日は君に会いに来たんだ」
「ようやく私の言葉を信じてくれたのかしら?」
自分の手にクリストフ王子の手が重ねられ、握り込まれたことを認識した時には、彼の唇が私の首筋に下りてきていた。
私は驚いてジョウロを落として、慌てて拾い上げようとするが、もう片方の手も、クリストフ王子の手によって自由を奪われてしまった。
「何のつもりなの?」
「君の温もりが恋しくなっただけさ」
母を呼ぶ子のような悲痛な色のこもったその声に、私は眉根を寄せた。彼の懐に飛び込むには、今この瞬間を利用する他ないのだ。
"クリストフ王子の指示のもとに、《血印の書》が盗まれていたそうです"――先日の、ヴァローナの言葉が蘇る。
「――私もよ」
自分の意志とは反する言葉を、声をひそめて唇から吐き出したあと、私はひそかに自分の下唇を強く噛んだ。
消えた《血印の書》は、彼の城にある。