冷徹王子と成り代わり花嫁契約
『大丈夫?』
『ええ、何ともないわ』
足を揃えて背筋を伸ばし、気丈に振る舞ってみせるその姿は私の妹、ローズ・スカーレットではないと、直感でわかった。
『イリヤ、そろそろ儀式が始まる』
しゃがみこんで薔薇を覗き込む少女と視線を合わせるように、少年はしゃがみ込んで、諭すような声音でそう告げた。
『わかってるわ。あなた、そのためにわざわざ呼びに来たの?』
呆れたようにため息をついた少女は、ゆっくりとした動作で立ち上がり、スカートを翻した。
『またあなたに会える?』
『必ず。君が年頃になって、結婚が出来る歳になったら迎えに行くよ』
どこか不安そうに聞く少女に、少年は穏やかな声音でそう答えた。
けれど、少女は安堵の表情を見せるどころか、眉根を寄せて険しい顔つきになった。
『その時まで、あなたは私のことを覚えているの?』
少女の問いかけに、少年が何と答えたのかわからなかった。
少年が口を開きかけたその瞬間に、身体が何かに吸い込まれるような感覚がして、視界が真っ白になったからだ。