儚い記憶
「美桜、ごめんな…痛かっただろ?ほんと最低だよな俺…もう落ち着いたから。なぁ…返事くらいしてくれよ」
そう言って床に倒れこんでいる私を抱き上げるのは、同棲している彼氏の拓。
ふわっと包み込む、タバコのにおい。
これはいつものこと。私は何も感じない。
感じるといえば身体中にじんわり広がる鈍い痛みだけだ。
目を開けると、拓は子犬みたいな顔をして私を心配そうに見つめていた。
私は大丈夫、と小さく呟いてゆっくりと身体を起こした。
すると、安心したのかその場をすっと離れてベランダに出て行った。
タバコでも吸っているのだろう。
慣れた光景、慣れた感情、慣れた静寂。